川越淑江(教育評論家)
一 家族のものの暖かい心をはぐくむ場所
人間がそこで生まれ、人間として育つところが家庭である。その家庭も今と昔では、ずいぶんと変化し、家族構成も複合家族から核家族に代わり、それに伴って家庭における教育も違ってきている。「家があっても家庭がない」といわれるまでになってきた。しかしいくら家族の構造や生活形態が変わっても、変わってならないのが、家庭の心であり、我が家の味だと思う。
ともしび近くきい縫う母は 春の遊びの楽しさかたる 居並ぶ子どもは 指を折りつつ 日数数えて 喜びいさむ いろり火はとろとろ 外はふぶき
という小学校唱歌がある。ここに出てくる「いろり」は殆ど見られなくなり、また、矩健は、茶の間に生活のなつかしい匂いを残しているが、矩健は家族の者が集い、冷えた身体を温めるばかりでなく、心も温めることが出来る場所である。
生活構造の近代化により、家の構造も和式から洋式化され、「いろり」はダイニングキッチンヘと様変わりした。今ではダイニングキッチンはリビング(居間)を兼用する家庭が多くなったが、構造は変わってもそこに流れる家庭での味は変わらず持ち続けたいものである。家族の者にとってそこは大切な城であり、生活の砦であり、子どもを育てる場合でも、ダイニングは、重要な役割を果たすと思う。心の美しさ、やさしさは、理論では教えることは出来ない。毎日触れ合う心と心の響き合いのなかで育てられる。