• HOME
  • 「明日への提言」

「明日への提言」  バックナンバー: 2011年

「願えば叶う」のメカニズム

平塚 真弘(東北大学准教授)

(1)私とあなたはどれだけ違うのか?

 だれでも好きな人や嫌いな人はいるし、人間関係で悩んだことがない人などはいないのではないでしょうか。熱心に信仰をされている方でも、時には、誰かの悪口を言ったり、批判をしたり、自分と比べて相手を見下したりしたことはあるでしょう。

 確かに、上司の○○さんよりもあなたは仕事ができるかもしれないし、嫁いだ先の姑さんはあなたが理解に苦しむ小言を言うかもしれません。それでは、あなたとその人はどれだけ違うのでしょうか。

 まずは、体の構成成分から考えてみましょう。私達の体は、驚くべきことに、その体重の約60%が水です。その他はタンパク質が17%、脂肪を含む脂質と呼ばれるものが14%、カリウムイオンやナトリウムイオンなどの電解質と呼ばれるものが6%、炭水化物が1.5%、残りはその他となっています。この構成比は個人や性別で若干の違いはありますが、ほぼ同じといって良いでしょう。したがって、私とあなたの体を作っている素材はほとんど一緒で、そこに優劣はなく、「彼も人なり、我も人なり」なのです。

 しかしながら、外見は随分違います。それは遺伝子と呼ばれる体の設計図が人によって違うからです。ヒトは約60兆個の細胞からできており、その細胞1つ1つに設計図が入っています。遺伝子と呼ばれる設計図は4種類のデオキシリボ核酸(DNA)が暗号のように約30億もつながっており、その長さは2メートルにもおよびます。つまり、直径0.01ミリメートル(1ミリメートルの100分の1)の細胞の中に約2メートルのDNAが入っており、それを設計図として体の機能に必要なタンパク質を作り、様々な臓器を作り出し、ヒトができあがっています。

 では、この30億あるDNA の並び方は、私とあなたではどれくらい違うのでしょう。なんと、約99.9%は同じなのです。このことは、近年の科学・技術の進展により、2003年にはじめて明らかになりました。昨日まで悪口を言っていたあの人は、あなたとほぼ100%同じ体の素材を持ち、DNA の並び方に関しては99.9%同じなのですね。

続きを読む


教団付置研究所のこれからの使命とは

遠藤 浩正(中央学術研究所客員研究員)

(1)はじめに~東日本大震災のこと

 3月11日の東日本大震災から早くも5か月が経った。前号の本欄でも今井正直・日本大学教授が触れておられたが、私もまず震災のことに触れておきたい。これまでにない地震、そして津波の被害に加え、東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射能の影響も未だ解決されずにいる。また、この間の政治は混乱を極め、私たちは何をよすがに生活をすればよいのか、不安にかられることがある。

 今回の震災で尊い命をなくされた方々のご冥福を心からお祈り申し上げるとともに、酷暑の中、今なお被災地や避難所などで生活をされている方々の御苦労はいかばかりか、と改めて衷心からお見舞いを申し上げる。併せて、被災地の復旧・復興に尽くされるすべての方々に心からの敬意と連帯を表明するものである。

 教団においても、尊い信者さんを失い、道場が大きな被害を受けるなど、甚大な人的・物的被害を被ったと伺っている。そんな中、教団職員や全国の信者の方々がいち早く救援・支援活動に動かれ、被災された地域の方々の心のケアを含め、現在も継続的に支援活動にあたられていることに対しても、この場をお借りして敬意を表したい。

 3月、余震に怯えながらふと思い返したことがある。平成7(1995)年阪神・淡路大震災の際も私たちの国は大きな苦難と悲しみに包まれた。しかし関東に住む私は、余震に怯えながら生活することの心許なさや1日わずか数時間の停電から起こる不便さに、’95年当時どれほどの想いを致していただろうか。関西にいる友人と、このことについて直接語ったこともなかったが、自分が直接体験してみないと持てない「当事者意識」の希薄さを深く反省している。

 そんな中、阪神・淡路大震災を経験された方々が、今回の震災被災者の方に対して発されたメッセージ「必ず復興するから、希望は捨てないで(関西の言葉でいえば「希望は捨てんといてや!」ということになるのだろうか)には、千鈞の重みと心からの励ましや温もりを感じた。「人はやっぱり、どこかでつながってんるんやなー」と改めて感じた瞬間だった。5月の連休に帰った亡父の郷里・石巻市や女川町、石巻市雄勝地区の惨状を目の当たりにしたときに感じた「この街がまた活気を取り戻すまで、一体どのくらいの時間が必要なのか…」という暗澹たる想いは容易に払拭し得なかったが、関西の方々の言葉を信じ、いつの日か必ず復興することを希望とともに待ち続けたいと思う。

 もちろん自らがこれからもできることに心を込めて尽くす、という前提において。

 その一方で、今回の震災を通して、私たちの住む社会のシステムが、実は脆弱な基盤の上に成り立っていたことにも気づかされることが多かった。携帯電話がつながらないというだけで、家族の安否すら確認できない。新年早々の「あけおめメール」が殺到する時期に「ケータイつながんねえって、不便だよなー」と感じていた程度の認識が、実は大変な問題を孕んでいたことを私たちは身をもって知らされることになった。

 ほんの10年ほどの間に、私たちはきわめて高度な情報化社会を迎えたように感じる。その進化のスピードはまさに加速度的であった。しかしその一方で、そうした社会が持つ「脆弱性」に、我々自身も気づかぬふりをしていたのではないだろうか?「大丈夫だよねえ、誰かが、何とかしてくれるよねえ…」と根拠のない保証に拠りながら。

 今回の経験から学び、活かすことはたくさんあると考えられるが、そのひとつとして今一度、私たちは「しなやかで強さをもった社会」をどのように再構築するのか、を考える必要がある。それは政治・行政という範ちゅうだけでなく私たち一人ひとりの生き方を含めた振り返りと議論が必要に思われる。

 そうした世相を捉えた上で、仏教真理を基盤としてよりよい生き方を指し示し、人々の精神生活に関与する教団として、これまで以上に社会に向けてどのようなメッセージを発信するのか、そのinstitute としての中央学術研究所に大きな期待が寄せられていると考える。このことについては後段で具体的に論じたい。

続きを読む


無財の七施に照らされる元気な国勢を目指して

今井 正直(日本大学教授)

(1)東日本大震災の発生

 平成23年3月11日(金)、私たちは今まで経験したことがない大震災に直面することとなりました。大地は不動なるものと思われていますが、地球スケールの視点から見れば、流動するマントルの上に浮かぶプレートと呼ばれる浮島のような存在なのです。マグニチュード9.0という莫大な地震エネルギーによって発生した強烈な大津波によって、自動車や家、船舶までもが波間に浮かんでは破壊されるという惨状を、息をのんで見守るしかありませんでした。

 マグニチュードが1大きくなるごとに地震のエネルギーは101.5 倍(約31.6倍)と定義されているので、マグニチュードが2つ大きくなると1000倍、4つ大きくなると100万倍、5つ大きくなると3200万倍の大きさになります。身体に感じる余震のマグニチュードは平均して4レベル程度ですから、如何に本震のエネルギーが大きかったかがわかります。

 加えて、深刻な原子力発電所の事故を引き起こし、収束の見通しが立っていません。放射性物質の汚染が深刻な地域では、ご遺体自身から強度の放射線が出て、お棺に収容することすら叶っていません。取り残された家畜は餓死し、私物を取りに自由に自宅に戻ることすらできません。私たちはこの悲惨な現況を分かち合い、直接被災された方々がこれから先に向かい合われる困難が少しでも緩和されるように英知を集め、国民の連帯を高める必要があります。

続きを読む


クザーヌスと庭野日敬

坂本 尭 (聖マリアンナ医科大学名誉教授)

一、はじめに

 今年2011年の初めにメールを開くとドイツのクザーヌス学会本部からの報せが届いていた。友人で学会の委員であるカイザー氏(AlfredKaisaer)が1月5日に病気のために亡くなったという訃報だった。彼は、クザーヌス研究者であるとともにトリアー大学に付属していたクザーヌス学会の役員として学会秘書フールマン女子と共に諸国の研究者の世話に当たっていた。その世話は大変行き届いていて、ドイツの国内外から参加する委員、会員、一般の参加者すべてが心から感謝していた。カイザー氏は20世紀のクザーヌス研究の第三陣に属する優れた研究者で、その実力からして諸国の研究を、現研究所長オイラー氏のもとでリードする人材であった。小生は公私ともども彼には大変お世話になって、その温和な風貌を今も思い出す。最近、国際クザーヌス学会を、高齢と持病のため欠席し、これまでお世話になったお礼を言えなかったことを残念に思いながら、お悔やみの言葉を送り、遠い日本から彼のご冥福を祈った。

二、世界のクザーヌス研究の回顧

 さて、現代のクザーヌスの研究を回顧すると、20世紀初頭から盛んになったクザーヌス研究の第一陣はドイツ、フランス、イタリアなどヨーロッパの諸大学であり、クリバンスキー、コッホ、ウィルペルト、ハウブスト、ガンデヤック、サンチネッロなどが有名である。1964年にクザーヌスの死後500年を記念してドイツとイタリアで国際学会が開かれ、それまでの研究が紹介され、現在の国際クザーヌス学会が設立され、クザーヌスは第二バチカン公会議の先駆者としてその平和思想が高く評価された。第二陣は彼等の弟子たちで、小生は1958年にドイツに留学し、哲学神学大学でクザーヌスを知ることが出来た。1964年にウイルペルト、クリバンスキー、ハウブスト諸先生と出会いお世話になった。まず、ケルン大学のウィルペルト先生の指導の下で、クザーヌスにおける「人間の尊厳」の思想について研究を始めた。同僚として、今も世界の研究の指導的立場にあるゼンガー氏、スペインの故コロメアー氏などがいた。その後、日本のクザーヌス研究者大出哲氏が留学してハウブスト先生の下で研究することとなった。帰国後、私は彼と日本クザーヌス学会を創立することになり、日本のクザーヌス研究が始まった。今は、その後をついで早稲田の八巻、京都の園田両先生を中心にクザーヌス研究者たちがヨーロッパ、アメリカの研究者とともに研究を進めている。

続きを読む


ページTOPへ

COPYRIGHT © Chuo Academic Research Institute ALL RIGHTS RESERVED.