平塚 真弘(東北大学准教授)
(1)私とあなたはどれだけ違うのか?
だれでも好きな人や嫌いな人はいるし、人間関係で悩んだことがない人などはいないのではないでしょうか。熱心に信仰をされている方でも、時には、誰かの悪口を言ったり、批判をしたり、自分と比べて相手を見下したりしたことはあるでしょう。
確かに、上司の○○さんよりもあなたは仕事ができるかもしれないし、嫁いだ先の姑さんはあなたが理解に苦しむ小言を言うかもしれません。それでは、あなたとその人はどれだけ違うのでしょうか。
まずは、体の構成成分から考えてみましょう。私達の体は、驚くべきことに、その体重の約60%が水です。その他はタンパク質が17%、脂肪を含む脂質と呼ばれるものが14%、カリウムイオンやナトリウムイオンなどの電解質と呼ばれるものが6%、炭水化物が1.5%、残りはその他となっています。この構成比は個人や性別で若干の違いはありますが、ほぼ同じといって良いでしょう。したがって、私とあなたの体を作っている素材はほとんど一緒で、そこに優劣はなく、「彼も人なり、我も人なり」なのです。
しかしながら、外見は随分違います。それは遺伝子と呼ばれる体の設計図が人によって違うからです。ヒトは約60兆個の細胞からできており、その細胞1つ1つに設計図が入っています。遺伝子と呼ばれる設計図は4種類のデオキシリボ核酸(DNA)が暗号のように約30億もつながっており、その長さは2メートルにもおよびます。つまり、直径0.01ミリメートル(1ミリメートルの100分の1)の細胞の中に約2メートルのDNAが入っており、それを設計図として体の機能に必要なタンパク質を作り、様々な臓器を作り出し、ヒトができあがっています。
では、この30億あるDNA の並び方は、私とあなたではどれくらい違うのでしょう。なんと、約99.9%は同じなのです。このことは、近年の科学・技術の進展により、2003年にはじめて明らかになりました。昨日まで悪口を言っていたあの人は、あなたとほぼ100%同じ体の素材を持ち、DNA の並び方に関しては99.9%同じなのですね。