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「明日への提言」  バックナンバー: 2017年

離婚・再婚家族のかたちと子どもの育ち

 野口康彦(茨城大学人文社会科学部教授)

はじめに 親の離婚の語りづらさ

 学部生対象の授業が終わって教室から立ち去ろうとした時、友人と会話する男子学生の放った一言が耳に入った。「親が離婚してもさ、養育費とかもらえるし」という何気ない、あるいは悪気もないその言葉には、親の離婚あるいは再婚を経験した子どもにもたらされる理不尽な事実を、実は多くの人が知らないという現実が凝縮されているように思えた。子どもにとって親の離婚は語りづらい出来事なのだ。

 不幸な結婚生活を耐えることが、夫婦あるいは親子にとって望ましいものでなければ、離婚は問題解決の方法の一つとなる。親の離婚を歓迎する子どもにとって、親の離婚は、夫婦の不和や家庭内暴力、子どもへの虐待、あるいは借金や飲酒問題など、不安定で機能不全に陥っている日常生活から解放される。同居した親の頑張りによって、適切な環境が整えられれば、子どもの発達の力は回復し、新しい生活にも適応できる。だが、転居や転校などの生活環境の大きな変化や経済的な生活苦に遭遇する際は、親の離婚が子どもにとって耐えがたいストレス要因ともなる。

 スクールカウンセラーの活動を始めた17年前頃より、筆者は親の離婚を経験した子どもの育ちに関心を寄せてきた。これまでの調査・研究の一端を踏まえつつ、当事者そして支援者との対話を通し、親の離婚を経験した子どもの育ちについて述べるとともに、離婚・再婚家族をめぐる、家族のかたちについてもふれてみたい。 続きを読む


アメリカのポピュリズムとキリスト教
――反知性主義の源流と排外主義の危険性

山本 俊正(関西学院大学教授)

はじめに

 トランプ大統領の誕生を前後して、「ポピュリズムの危機」が叫ばれている。「米国第一主義」を掲げる大統領の登場で、白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)、ネオナチ、人種差別を隠さない「アルトライト」が勢いづいている。ポピュリズムは「大衆迎合主義」と訳され、民主主義に敵対する概念とされることが多い。その理由は、副産物として、衆愚政治、排外主義、差別主義などを活性化させることが含まれるからだ。

 しかし一方でポピュリズムは、イギリスのEU離脱や最近のアメリカ及びフランス大統領選の投票行動に見られるように、既成政党やエリート支配に対する不満のはけ口、異議申し立て行動として民主主義と併走しながらその存在感を示している。アメリカのポピュリズムの背後には何があるのか。鍵概念となる反知性主義に注目し、その源流となったと言われる、キリスト教の歴史、特にアメリカのプロテスタント教会の歴史と発展の特色を概観し、アメリカで繰り返し表出する人種差別、排外主義の危険性を考察したい。 続きを読む


食育がめざすもの

長澤 伸江(十文字学園女子大学教授)

食育における時代の潮流

 食は人が生きていくための源であり、命そのものと考えられています。しかし、日本は飽食の時代となり、ライフスタイルの変化もあって食をめぐる多くの課題が表面化してきました。その課題の解決に向けて、2005年に「食育基本法」が制定されました。その前文には、「二十一世紀における我が国の発展のためには、子どもたちが健全な心と身体を培い、未来や国際社会にむかって羽ばたくことができるようにするとともに、すべての国民が心身の健康を確保し、生涯にわたって生き生きと暮らすことができるようにすることが大切である」と書かれています。新たな法律を作り、国民運動として食育がスタートしました。

 制定から10年が経過し、社会の潮流が人口減少や少子高齢化、グローバル化、多様化する災害への対応、持続可能な循環型社会などへと加速しています。これまでも食を大切にする心の欠如、若い世代の朝食の欠食、栄養バランスの偏った食事や不規則な食事の増加、過度の痩身志向、働き盛り世代のメタボリックシンドロームや生活習慣病の増加が問題となっていました。超高齢社会を迎えた今、ロコモティブシンドロームの予防や低栄養の改善などによる健康寿命の延伸が食育のテーマとなっています。このほかにも、世帯構造や貧困の状況にある子どもに対する食支援など食をめぐる課題は山積し、子どもから高齢者まで、生涯を通じた食育の取り組みが重要となっています。そして、生涯にわたって、健全な心身を培い、豊かな人間性を育むためには、健全な食生活を実践するとともに、食を通じたコミュニケーションや日本の食文化の継承、生産から消費までの食の循環、食品ロスの削減、災害時の食への配慮など、人と人、地域と地域のつながりを意識した食育の取り組みが大切となっています。
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若者の貧困を解決するために

稲葉 剛(立教大学大学院特任准教授)

  私は1994年から、新宿を中心に路上生活者の支援活動を始め、2001年に湯浅誠と一緒に「自立生活サポートセンター・もやい」を立ち上げて、ホームレスの人たちがアパートに入るときの連帯保証人の提供や幅広い生活困窮者への相談・支援活動を行ってきました。2014年には一般社団法人「つくろい東京ファンド」という団体を新たに立ち上げ、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業を展開しています。

 そうした生活困窮者支援の現場から見えてきた若者の貧困の現状について報告させていただきます。 続きを読む


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