はじめに 親の離婚の語りづらさ
学部生対象の授業が終わって教室から立ち去ろうとした時、友人と会話する男子学生の放った一言が耳に入った。「親が離婚してもさ、養育費とかもらえるし」という何気ない、あるいは悪気もないその言葉には、親の離婚あるいは再婚を経験した子どもにもたらされる理不尽な事実を、実は多くの人が知らないという現実が凝縮されているように思えた。子どもにとって親の離婚は語りづらい出来事なのだ。
不幸な結婚生活を耐えることが、夫婦あるいは親子にとって望ましいものでなければ、離婚は問題解決の方法の一つとなる。親の離婚を歓迎する子どもにとって、親の離婚は、夫婦の不和や家庭内暴力、子どもへの虐待、あるいは借金や飲酒問題など、不安定で機能不全に陥っている日常生活から解放される。同居した親の頑張りによって、適切な環境が整えられれば、子どもの発達の力は回復し、新しい生活にも適応できる。だが、転居や転校などの生活環境の大きな変化や経済的な生活苦に遭遇する際は、親の離婚が子どもにとって耐えがたいストレス要因ともなる。
スクールカウンセラーの活動を始めた17年前頃より、筆者は親の離婚を経験した子どもの育ちに関心を寄せてきた。これまでの調査・研究の一端を踏まえつつ、当事者そして支援者との対話を通し、親の離婚を経験した子どもの育ちについて述べるとともに、離婚・再婚家族をめぐる、家族のかたちについてもふれてみたい。 続きを読む