尾登 誠一(秋田公立美術大学大学院教授)
デザインは愛である
若輩期、大学での学びの規範は、恩師、小池岩太郎先生の哲学「デザインは愛である」ということばだった。当然、未熟で好奇心旺盛の小生には、この薫陶の本意は理解できず、後に社会でデザイン提案し、また母校で教鞭をとるなか確認されたように思う。製品開発と将来これを目指す学生と向き合う教育・研究は、道具世界のみならず、これを考え提案する「人間」への洞察なくしてはありえず、思いやりや慈しみ、心への呼びかけの常態実践を信条としている。ものごとには入口と出口があって、母校退任のおり妙に気になったこと、それはデザインは愛であるというこだわりの帰結デザインテーマであったように思う。当時、私の母は96歳の高齢で余生短い病院生活を送っていたが、母のためのデザインは考えたことがなかった。そしてごく自然に母を此岸から彼岸に送る渡し船「君子さんのゆりかご」を作意させた。デザインは決してカッコイイものではなく、日々暮らす生活の場で気づく、人としての当たり前の行為であり、デザイナー以前に人間であるべきだというこだわりにより成立するように想う。 続きを読む