• HOME
  • 「明日への提言」

「明日への提言」  バックナンバー: 2024年

立正佼成会の「お会式」参拝の歴史と継承―藤沢市・龍口寺に注目して

中町泰子(神奈川大学国際日本学部講師)

1 はじめに

 ここ10年間ほど、筆者は神奈川県藤沢市に所在する日蓮宗・龍口寺において、毎年9月11から13日にかけて行われる「龍口法難会」を調査してきた。この法難会は、竜の口の刑場へ護送されてきた日蓮上人が、まさに斬首の危機に瀕した瞬間に、江の島の方から光り物が飛来し、太刀が砕ける奇瑞が起こり、執行人が恐れおののいて刑が中止された伝承に因んでいる。

 調査を始めた当初は、この法難会で必ず奉納される「胡麻の牡丹餅」が、どのような人々によって作られているのかに関心を持っていた。しかし、毎年足を運んでいるうちに、行事の裏方として奉仕する人々に次第に注目するようになった。行事の進行の裏側では、僧侶のみならず、講という信徒集団や、地域の団体、個人のボランティアの人々らが集まり、事前の準備を始めとして、当日の活動、片付けまで細かに役割を分担して動いていることがわかってきた。法難会の実施には、寺院側だけではなく、重層的に支える人々の輪が関わっているのである。

続きを読む


「仙台あおばの会」の挑戦

平塚真弘(東北大学大学院薬学研究科准教授)

 話は2016年1月25日まで遡ります。私の所に来たメールには、「立正佼成会仙台教会の近藤雅則教会長さん(当時、現文京教会教会長)が善知識研究会のような有識者によるシンクタンクを仙台に創設したいと言っている。相談に乗ってくれない?」と書いてありました。同年2月に東北大学名誉教授・齋藤忠夫先生と小生を含む、学術、社会福祉、教育、政治、会社経営、芸術関係者などの有識者が招集され、「有識者懇話会(仮)」が立ち上がりました。会の目的は、「①宗教心をもたない人々にどう仏教精神を伝えるか。②宗教者としての社会貢献をどう果たしていくか。③宗教の社会的信頼をどう高めるか。不信感をどう払拭するか。」という今日的な課題に対し、「①宗教者同士の相互理解と協力、②地域社会・各団体との連携、③宗教者の本来的使命の自覚、④時代状況に応じた宗教活動の展開」の取り組みを通して、多職種の有識者らが、「従来にない新たな発想で、今日的課題解決のヒントを発信して行く」、というものでした。

 2016年5月14日、「有識者懇話会(仮)」は、杜の都・仙台にちなみ「あおばの会」という名称に決定し、6月17日に齋藤忠夫先生(当時は東北大学大学院農学研究科教授)があおばの会代表に就任しました。小生は「副代表」の肩書きを頂き、8月28日に「あおばの会発足記念市民講演会:こころの復興に向けて」を仙台国際センターで開催したのです。講師には、一般社団法人宮城連携復興センター代表理事・紅邑晶子氏を招きました。「あおばの会」は有識者メンバーの人脈を最大限に活用し、その後も、NPO法人八王子つばめ塾理事長・小宮位之氏、宣教師・趙泳相氏、作家・保護司・NPO 法人ロージーベル代表理事・大沼えり子氏、公益社団法人日本駆け込み寺理事・玄秀盛氏、ココロノキンセンアワー代表・茅根利安氏など、様々な分野のプロフェッショナルを講師に迎え、市民講演会・教会講演会を展開してきました。

続きを読む


異文化コミュニケーションにおけるユーモアの効用

大島希巳江(神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科教授/英語落語家)

1)ユーモアの役割

 「ユーモア学」と日本語で表記すると、見慣れない言葉かもしれない。英語ではHumor Studies として国際的に認知されている学問の一つである。日本でユーモア学がなかなか浸透してこなかった理由は、異文化コミュニケーション学の需要が低かったことにも関連していると考えている。近年でこそ、グローバル化や国際化が叫ばれ企業でも教育現場でも国際力やコミュニケーション力の向上を目指す傾向が強くなり、それに伴い異文化適応力やユーモア力も求められるようになってきた。ここ10年ほどで企業での海外赴任に適する人材の条件も、語学力第一ではなくコニュニケーション力とユーモアのセンス、と変わってきた。

 異文化コミュニケーション力や異文化適応力がなぜユーモアに関わってくるのか、というとそこにはいくつかの共通するスキルがあるからである。異文化適応能力やユーモア力のある人材には柔軟性、多様性、創造力に長け、チームワークがよく、ストレスをためにくい、といった特徴がある。さらにユーモアのある人はリーダーシップがあり、好意的な姿勢で人に接することができ、逆境に強く、問題解決能力が高いということが研究の結果わかってきている。こういった能力は多文化環境において発展しやすい。アメリカやオーストラリアといった移民社会、つまり多文化・異文化接触の多い社会の人々がジョークをよく言う陽気な人たちである、というステレオタイプ的なイメージが強いのには、このような背景があると考えられる。普段から言語も文化も異なる人々がなるべく衝突を避けながら共存していこうと工夫しながら生活しているわけであるから、当然、異文化間でのコミュニケーション能力は高くなり、そのための研究もすすめられる。異文化コミュニケーション学やユーモア学が最も発展しているのは、やはりそれらの需要が高いアメリカやオーストラリア、そして多くの国々が接触しているヨーロッパである。

続きを読む


移住について考える

平 修久(聖学院大学名誉教授)

1.はじめに

 住む場所によってできることが異なり、どこに住むかは人生の中で重要な事項である。人生を変える手段の一つとして移住がある。バブル崩壊、リーマンショックに加えて、コロナ感染症蔓延がプッシュ要因として移住を促してきた。

 国は、戦後、均衡ある国土の発展を目指し、全国総合開発計画を4回策定して、地方の開発を進めた。その後、国土形成計画を3回策定し、総合的かつ長期的な国土づくりの方向性を示してきた。第二次形成計画(2014)において、初めて「田園回帰」「地方移住」といった語句を用いて、ふるさとテレワーク、田舎探し、シニア世代の地方居住、地域おこし協力隊などの具体的施策を記述した。同年の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」においても、地方への移住促進が主要施策の一つとして位置付けられ、地方創生推進交付金の対象となった。施策の具体的方向として、地方への人材還流、地方での人材育成、地方の雇用対策が掲げられた。国民の間の移住の動きに便乗して、地方の停滞・衰退の解決策の一つとして、都市部から地方への移住を推進するようになった。しかしながら、言うまでもなく、移住するかしないかは各自の判断であり、我々は国や自治体の推進策を利用する立場にある。

 移住を文字通り「移り住む」ことと捉えると、地方から都市部への転入や業務命令による転勤・引っ越しも含まれるが、本稿では、自らの意志によって都市部から地方へ移り住むことを対象にする。筆者の2年半の移住体験を軸に、参考文献を交えて、移住者サイドと移住先サイドの両方の状況と両者の関係を論じたい。

続きを読む


ページTOPへ

COPYRIGHT © Chuo Academic Research Institute ALL RIGHTS RESERVED.