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「明日への提言」

人口減少化時代の家族とすまい・まちづくりを考える

山﨑 俊裕(東海大学教授)

1.人口減少化時代のすまい・まちづくりの課題

 日本の総人口は、平成17年(2005年)に初めて年間死亡数が出生数を上回り、平成19年(2007年)以降、本格的な人口減少化時代に移行しました。地域や社会あるいは様々な組織・産業において、今後の人口減少に伴って派生する様々な問題・課題への対応が求められています。人口が増加していた時代に建てられた戸建て住宅や集合住宅、学校、図書館、公民館、文化ホール、庁舎等の建築ストックが全国各地にありますが、本格的な人口減少を迎えた今、これらの建築ストックを適宜、改築・改修しつつ、減少する人口に応じた建築ストックまで総量を減らしていく必要がある訳です。

 日本は一年を通して気温や降水量の変化が大きい温暖湿潤気候に属しており、また周囲が海に囲まれた風土であることから、建物の建て替え年数は用途・種類・構造等によりかなり差はありますが、一般的には30~40年前後で建て替えや大規模改修が行われてきました。一方、近年、良好な建築ストックの蓄積と長寿命化が叫ばれるようになり、100年保つ住宅を売りにする事例も出ています。建物の寿命が現在より仮に3倍長くなり、また40~50年先に人口が2/3あるいは1/2になった場合、住宅の需要は大雑把にいうと現在の1/4~1/6でよいことになります。すなわち、我々の身近なすまいを改築・改修しながら、総量としてどのように「減築」していくかということが問われている訳です。人口減少は地域の学校、図書館、公民館、その他複数の公共施設の再編(改修、改築、統廃合)をどのように行っていくのかという命題も提起しています。身近な例では少子化に伴う学校の統廃合や複合化等が挙げられます。全国の自治体で現在、公共施設の再編に向けた白書づくりや再編基本方針・再編計画策定等が進められており、筆者が属する日本建築学会でも公共施設再編のあり方や具体的な方策について、近年盛んに議論されています1)2)。また、平成18年を目処に全国自治体で平成の大合併が行われましたが、これらの合併により各自治体がそれまで保有していた庁舎、劇場・ホール等の公共建築ストックを総量としてどのように減築するかも課題となっています。特に東日本大震災で甚大な被害を受けた地区では、居住地移転に伴う地域・地区人口の減少が大きな問題となっており、関係者や専門家を交えた本質的な議論・検討・対策が求められています。

 私たちの身近な地域・まち・都市の建築ストックを減築(引き算)するということは、建築(足し算)するより難しい課題が多くあります。皆さんが住む地域にもかなりの数の空き家が存在すると思います。しかし、地域やまちの景観を維持しながら「減築」していくことは困難な課題です。これはという妙案はなかなか思い浮びませんが、少なくとも建物の長寿命化と同時に、空き家や未利用施設の改修・再生・用途転用・除却の方法等について、皆で徹底的に議論・検討し、今後の方策を考えることが重要だと思います。

2.家族とすまいのあり方を考える

 「建築は住宅に始まり住宅に終わる」といわれていますが、住宅は人が日常生活をする上で基本かつ重要な役割を有しています。かつての大家族制の伝統的な日本の住宅は「田の字型平面」と呼ばれる間取りを基本としたもので、襖・障子・板戸等を取り外すと大きな空間となり、また縁側や仕事場と連続する土間・通り庭等を介して外部空間と繋がることで、家で冠婚葬祭や近隣住民の集会、憩い、教育、さらには出産等を行う機能を有していました。住宅平面形式は、時代の流れとともに伝統的な「田の字型平面」から各室のプライバシーを確保するための「中廊下形式」に移行し、「食寝分離」すなわち食べる所と寝る所を分離するという原則のもとにDK(ダイニング・キッチン)が派生し、現在のn-LDKスタイルの住宅平面に移行してきました。今日、核家族化の進行とともにn-LDKスタイルの標準的平面を有する住宅が沢山存在しま象するもので、100の家族があれば100の個別解・固有解として存在するべきです。高度成長期に多量供給された住宅ストックが沢山存在しますが、人口減少の時代を迎えた今日、個別解・固有解として住宅をどのように減築・整備していくかは、大変重要な課題だといえます。

3.ライフサイクルと環境移行について

 人間のライフサイクルには、出生、乳幼児期、学童期、青年期、成人期、壮年期、高齢期、終末期等がありますが、住宅の規模・機能や間取りを考える際には、これらのライフサイクルを考えることが大切です。「建築は住宅に始まり住宅に終わる」という言葉をライフサイクルと関連させて再考してみると、「住宅で生まれ育ち、住宅で終末期を過ごす」ということになります。住宅の大きさや間取りを考える際、子どもがいる時期を中心に考える場合が多いと思いますが、今後、住宅が長寿命化して一つの住宅に住む期間が長くなるということは、今まで以上に「終の住処」として住宅がどのようにあるべきかを考える必要がある訳です。人間は若年期に比べて高齢期になると、人的・社会的・物的環境変化に対する適応能力が一般に低下すると考えられています。人的環境変化としては、子どもの独立に伴う家族構成員の減少や伴侶喪失に伴う「お一人様世帯」への移行等が挙げられます。また、新しい住宅への引っ越し・移転は、近隣・地域の人間関係が大きく変わるだけでなく、物的環境である地域・まちの様相、そして住宅の間取り・設え、周辺環境等も大きく変わってしまいます。人的環境と同時に物的環境が劇的に変わるような引っ越し・移転、そして住宅改築は特に環境適応能力が低下した高齢期には極力避けるべきだと思います。日常生活環境の継承は高齢者福祉を考える上での基本概念であり、すまい・まちづくりにおいてもこの概念は忘れてはいけない視点です。高齢期では如何に健康的、機能的、安全・安心、快適に日常生活を継続して過ごせるかということが大変重要です。私の好きな言葉の一つに、芭蕉の俳句の思想に通底する「不易流行」という言葉があります。今日の高度情報化社会の中で、変わること、変化に対応することを求められる風潮がありますが、変わらないことも重要であるということを忘れてはならない気がします。

4.若者のすまい方、高齢者のすまい方

 近年、話題となっている住宅の例として、シェアハウスやコレクティブハウスがあります。シェアハウスは主に若者単身者が入居する個室群とリビング・食堂・キッチン等、共同利用できるスペース等を有する集合住宅で、学生寮や社員寮に近い形態といえます。若者が家から出て集団居住するスタイルとしては「若者宿」というものがあります。三重県鳥羽市の答志島集落の若者宿が有名で、若者達は一定の年齢に達すると家を出て年長者の元で一人前になるまで集団生活を行うという形態です。シェアハウスはある意味では現代版の若者宿とみることができるかもしれません。一方、コレクティブハウスは個別の住戸群と食堂・キッチン・談話室・多目的室等の共用スペースを有する集合住宅で、シェアハウスと類似していますが、入居者は高齢者世帯の他、子育て世帯も入居する相互扶助と多世帯交流を目的とした集合住宅です。もともとは北欧の集合住宅にみられる形態です。日本では阪神淡路大震災後、高齢者の孤独死が問題となり、入居者との交流・コミュニケーションを図るため、路地状通路を設けた「真野ふれあい住宅」が専門家有志により実現し、近年建築事例が徐々に増えています。日本の伝統的な集落や住居は多世帯交流が日常生活の中で行われてきた訳ですが、核家族化の進展と個室要求の流れの中で、多世帯交流は徐々に喪失してしまったと考えられます。人間関係の希薄化が叫ばれる一方で、人と人との交流・コミュニケーション、相互扶助という協同概念が見直され、若者がシェアハウスを求め、コレクティブハウス入居高齢世帯・子育て世帯が増えていることは、大変喜ばしいことだと思います。その点では日本の将来を楽観的にみることもできますが、心配な点もいろいろあります。

 近年、保育園や幼稚園の子どもの声がうるさいと近隣からクレームを言われるということをよく耳にします。筆者が最近計画・設計に関わった保育園3)でも、近隣からいろいろな意見をいただくことが増えていると聞いています。子どもは次世代を担う大切な社会の宝であり、また高齢者の福祉・医療サービスの将来的な財源を担う人材です。子育て世帯への理解・支援と豊かな子どもの成育環境の構築は、大変重要な社会的使命だといえます。豊かな成熟社会とは、多世代が共存・共助し、時には切磋琢磨しながら健康的、機能的、安心・安全、快適、文化的に生活できる社会ではないでしようか。

5.家族の生活領域について

 住宅各室の間取りや各階空間構成のあり方は、居住者である夫婦や子どものコミュニケーション機会・能力、さらには家族相互の人間関係にもさまざまな影響を与えると考えられます。ここで卑近な例ですが、様々な住宅における家族構成員の居場所・コミュニケーション量等について、筆者の研究室の院生と調査・実験を行った例を紹介させていただきます。ここでは、臨床心理学的アプローチである生活空間投影法を用いて、複数の異なる住宅平面・間取りに住む家族構成員の住宅内外の居場所とその特性を捉える試みを行いました4)5)。いくつかの調査・実験の結果、住宅の延床面積・間取りは家族のコミュニケーション量や家族行動に強い影響を及ぼすこと、LDK・個室以外の多目的な利用が可能な空間を有する住宅では家族のコミュニケーションに関わる評価が高くなること等が明らかとなりました。また、小林・鈴木の生活領域の概念モデル6)を参考に、今日の家族構成員の日常生活における居場所と住空間の特性を分析・考察した結果、拠点を複数持ち外在する機能・サービスに依存することで生活を組み立てている家族(Type A)、家に個人の居場所がなく外部にある家族(Type B)、一つの家族が複数の住戸をもち距離を保ちながら生活する家族(Type C)、家族構成員が異なる領域に居場所をもち共有空間を選択して生活する家族(Type D)の4タイプがあることが明らかとなりました(図-1、図-2)。
これらの結果は、ある意味で現代の多様な家族(機能不全を含む)の居場所・生活領域の様相の一面を示していると考えられ、大変興味深い結果です。
人口減少が進む今日の日本において、身近な住宅や公共施設の今後のあり方について、皆で真剣に議論・検討が本当に必要な時代だといえます。

図-1 生活領域の概念

図-1 生活領域の概念

図-2 新たな家族の生活領域モデル

図-2 新たな家族の生活領域モデル


参考文献

1) 日本建築学会編:「公共施設の再編- 計画と実践の手引き」、森北出版,2015年2月
2) 佐藤大悟、山崎俊裕:「全国自治体庁舎の施設規模・保有形態の実態と施設再編整備に関わる課題について」、日本建築学会関東支部研究発表会、2015年3月
3) 山崎俊裕、寺川典秀、佐藤大悟:「千葉市南小中台保育園デメテルホールの計画・設計について」、日本建築学会関東支部デザイン発表会、2015年3月
4) 番場康太:「生活領域の視点からみた家族構成員の居場所と住空間の特性に関する研究 ―生活空間投影法を用いた臨床心理学的実験の試み」、2013年度東海大学大学院修士論文
5) 番場康太、山崎俊裕:「機能不全家族の住宅空間と生活実態を捉えるための臨床心理学的実験 -生活空間投影法、家族関係単純図式投影法、写真投影法の試行実験」、住宅系研究報告会論文8、2013年12月6) 小林秀樹、鈴木成文:「共有領域の概念」、日本建築学会大会学術講演梗概集、1983年


◆プロフィール◆

山﨑 俊裕(やまざき・としひろ)        (1958年生)
京都府生まれ。福井大学建築学科卒、東京都立大学大学院博士課程修了。東京都立大学移転準備室・非常勤講師、東京電機大非常勤講師、職業能力開発大学校専任講師、東海大学助教授を経て、現在、東海大学工学部建築学科主任教授。専門分野:建築計画、環境心理・環境行動。

 著書:『学校建築の変革』(彰国社)、『フィールドワークの実践』(朝倉書店)、『建築系学生のための卒業設計の進め方』(井上書院)等。計画・設計指導作品:「植草学園大学新棟・同図書館棟」、「千葉市南小中台保育園デメテルホール」等。

(『CANDANA』265号より)


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